### 映画『国宝』要約とレビュー(ネタバレあり)
#### 1. 作品概要
映画『国宝』は、芥川賞作家・吉田修一の同名小説を原作に、李相日監督が手掛けた人間ドラマです。任侠(ヤクザ)の家に生まれながら歌舞伎の世界に飛び込み、芸の道を極めるために人生を捧げた主人公・立花喜久雄の波乱に満ちた50年間を描いた壮大な一代記です。主演は吉沢亮、ライバル役に横浜流星、脇を渡辺謙、田中泯、寺島しのぶ、高畑充希、森七菜ら豪華俳優陣が固め、約3時間(175分)の長尺ながら圧倒的な映像美と演技力で観客を引き込みます。公開後、興行収入は15億円を突破(公開13日間時点)、映画レビューサイトFilmarksで平均4.4点(5点満点)という高評価を獲得し、2025年上半期の邦画ランキングで1位に輝くなど、異例のヒットを記録しています。[](https://filmarks.com/movies/115241)[](https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ca7e8a1e19fc41e560684678408686d88055b113)[](https://news.yahoo.co.jp/articles/e3c2fdbb9184974f115dd5ac34dc866742b979fe)
物語は、ヤクザの息子として生まれ、歌舞伎の女形として頂点を極める喜久雄と、名門歌舞伎一家の御曹司・俊介のライバル関係を中心に展開します。血筋、才能、嫉妬、裏切り、愛憎、芸への執念といったテーマが絡み合い、歌舞伎という伝統芸能の美しさと過酷さを描き出します。脚本は奥寺佐渡子、撮影はカンヌ受賞作『アデル、ブルーは熱い色』のソフィアン・エル・ファニ、美術は『キル・ビル』の種田陽平、音楽は原摩利彦(ボーカルにKing Gnuの井口理)が担当し、世界的スタッフが集結。2025年カンヌ国際映画祭の監督週間部門にも出品され、国内外で高い評価を受けています。[](https://kokuhou-movie.com/)[](https://news.yahoo.co.jp/articles/235313170fd466ef488b608f1da8690c7ce28078)
#### 2. あらすじ(ネタバレあり)
**序盤:喜久雄の出自と歌舞伎への第一歩**
物語は1960年代、九州のヤクザ組織・立花組の新年会から始まります。主人公・喜久雄(少年時代:黒川想矢)は、立花組の親分・権五郎(永瀬正敏)の息子として生まれ、背中に白虎の刺青を持つ少年です。新年会の余興で披露した女形の舞が、来賓である上方歌舞伎の名門・花井半二郎(渡辺謙)の目に留まります。しかし、その夜、抗争により権五郎が喜久雄の目の前で銃殺され、鮮烈な雪景色の中で父の刺青が雪に染まる壮絶なシーンが描かれます。この光景は喜久雄の心に深く刻まれ、彼の人生を決定づける原風景となります。[](https://music.jpn.com/entry/kokuhou/)[](https://ameblo.jp/ruri-happy111/entry-12908829078.html)
天涯孤独となった喜久雄は、半二郎に引き取られ、大阪の歌舞伎名門・花井家で育てられます。半二郎の息子・俊介(少年時代:越山敬達)とともに、厳しい稽古の日々が始まります。喜久雄は天性の美貌と才能を持ち、女形としての素質を開花させますが、俊介は名門の御曹司として生まれながらも努力型の秀才であり、血筋と才能の違いから二人の間に微妙な緊張感が生まれます。半二郎の妻・幸子(寺島しのぶ)は喜久雄を我が子のように育てつつも、俊介への期待と愛情を隠しません。[](https://eiga.com/movie/101370/)[](https://blog.goo.ne.jp/ipod_mini/e/1a6fc3e55ee4a69a4deadab555253f23)
**中盤:ライバル関係と芸の道**
成長した喜久雄(吉沢亮)と俊介(横浜流星)は、兄弟のように親密でありながら、ライバルとして切磋琢磨します。二人が共演する「二人道成寺」は大成功を収め、歌舞伎界で注目を集めます。しかし、半二郎が事故で入院し、「曽根崎心中」のお初役の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、二人の運命が大きく変わります。喜久雄の演技は観客を魅了し、彼は一躍スターとなりますが、俊介は父の選択に傷つき、嫉妬と自己嫌悪に苛まれます。この決断は、俊介にとって血筋の看板が必ずしも成功を保証しない現実を突きつけ、喜久雄には世襲の壁を乗り越える過酷な試練を課します。[](https://eiga.com/movie/101370/)[](https://eiga.com/movie/101370/review/)
喜久雄は女形の人間国宝・小野川万菊(田中泯)に師事し、芸を磨きます。万菊の「女になり切れていない」という厳しい指導は、喜久雄に芸への執念を植え付けます。一方、俊介は自分の限界と血筋へのプレッシャーに耐えきれず、歌舞伎界から一時姿を消します。この間、喜久雄は恋人・春江(高畑充希)と深い関係を築きますが、彼女の心情は複雑です。春江は喜久雄を愛しつつも、彼の芸への執着に距離を感じ、プロポーズを曖昧に断ります。後に春江は俊介と関係を持ち、子供を産む選択をする。この裏切りは、喜久雄の心に深い傷を残します。[](https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13312761488)[](https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14316032239)
**終盤:挫折と再生、そして国宝へ**
喜久雄はスキャンダルにより歌舞伎界から追放されますが、地方巡業や小さな舞台で這い上がり、復帰を果たします。一方、俊介も苦難を経て歌舞伎界に戻り、二人は再び舞台で対峙します。喜久雄は藤駒(見上愛)との間に娘・綾乃(瀧内公美)をもうけますが、芸への執着から家族を顧みず、綾乃との関係は希薄です。綾乃が父に伝える言葉は、スターを支えるファンの心情と、喜久雄の孤独を浮き彫りにします。[](https://eiga.com/movie/101370/review/)
物語のクライマックスは、喜久雄が「花井白虎」を襲名し、歌舞伎の名作「鷺娘」を演じるシーンです。雪が舞う舞台で、喜久雄は父の死の記憶と芸の極みを重ね合わせ、圧倒的な演技で観客を魅了。人間国宝に選ばれた喜久雄は、インタビューで「景色を探し続けている」と語ります。これは、父の死の雪景色と、芸を通じて追い求める究極の美への渇望を象徴しています。しかし、舞台上で倒れた喜久雄は、半二郎の「生きろ」という言葉を聞きながら、芸の呪縛と血の記憶に縛られた人生を振り返ります。映画は、喜久雄が歌舞伎座の屋根の上から見る雪景色で幕を閉じ、彼の人生が芸と血の狭間で完結することを示唆します。[](https://music.jpn.com/entry/kokuhou/)[](https://blog.goo.ne.jp/ipod_mini/e/1a6fc3e55ee4a69a4deadab555253f23)
映画は、歌舞伎の女形という特異な存在を通じて、性やアイデンティティの境界を超えた美の追求も描きます。喜久雄と俊介の女形としての演技は、単なる役作りを超え、自己を捨てて「女性性」を体現する精神的な深みを表現。特に喜久雄の「曽根崎心中」でのお初役や「鷺娘」のシーンは、観客に圧倒的な感動を与えます。[](https://eiga.com/movie/101370/review/)
**映像美と演出**
李相日監督の演出は、歌舞伎の舞台を映画的なスケールで再現し、色彩豊かな映像美と緊張感あふれる音響で観客を魅了します。冒頭の雪景色や舞台の赤と黒のコントラスト、女形の白塗りの顔が浮世絵のように映えるシーンは、視覚的に圧倒的です。音楽は、歌舞伎の伝統的な囃子にストリングスやシンセを加え、現代的かつドラマチックな効果を高めています。撮影監督ソフィアン・エル・ファニの繊細なカメラワークは、舞台の緊張感や役者の心の機微を捉え、3時間の長尺を感じさせません。[](https://eiga.com/movie/101370/review/)[](https://www.cinematoday.jp/movie/T0029714/review)
**演技の圧巻**
吉沢亮と横浜流星の演技は、本作の最大の魅力です。1年半の稽古を経て、歌舞伎の女形を完璧に演じ切った二人の努力は、観客に伝わります。特に吉沢亮の喜久雄は、少年時代の色気と大人の孤独感を見事に表現。横浜流星の俊介は、血筋の重圧に苦しむ繊細な心情を体現し、観客の共感を誘います。田中泯の万菊は、短い出演時間ながら圧倒的な存在感で「人間国宝」の気品を表現。黒川想矢と越山敬達の少年時代の演技も、物語の基盤をしっかりと支えます。[](https://eiga.com/movie/101370/)[](https://eiga.com/movie/101370/review/)
**文化的意義**
『国宝』は、歌舞伎という日本の伝統芸能を世界に紹介する作品として、国際的な評価を得ています。在日朝鮮人三世の李相日監督が、日本の伝統とアウトサイダーの視点から描いた点は、ジャポニズムを現代的に再解釈した作品として意義深いです。『さらば、わが愛 覇王別姫』との比較も多く、京劇と歌舞伎という異なる芸能を背景に、芸道の普遍性を描いています。[](https://www.cinematoday.jp/movie/T0029714/review)[](https://eiga.com/movie/101370/critic/)
**原作との違い**
原作小説『国宝』(青春篇・花道篇)は、喜久雄と俊介の人生を詳細に描いた大長編です。映画は3時間に収めるため、女性キャラクター(春江や彰子の心情)や一部のエピソードが簡略化され、原作愛読者からは物足りなさも指摘されています。特に、ラストの「鷺娘」の場面は、原作では歌舞伎座の屋根から見る俯瞰的な視点が強調されますが、映画では舞台中心の演出に変更。原作の文学的な深みがやや薄れたとの声もありますが、映画としてのカタルシスは十分に提供されています。[](https://note.com/kamakurah/n/nbae8aa43dc21)
**PG-12要素**
PG-12指定の理由は、冒頭のヤクザ抗争の暴力シーン、刺青の露出、春江と俊介のベッドシーンなどです。これらはデートで見るにはやや気まずい可能性がありますが、物語の文脈上必要であり、過度に刺激的ではありません。[](https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10316318870)[](https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14316032239)
#### 4. 評価と感想
『国宝』は、2025年の邦画を代表する傑作です。3時間の長尺ながら、観客を引き込むストーリー展開、圧倒的な演技、映像美、音楽の融合は、映画館で体感すべき作品です。歌舞伎に詳しくない観客でも、芸と人生の葛藤を描いた普遍的なテーマに共感できます。個人的には、喜久雄の「鷺娘」のシーンで涙し、彼の孤独と美の追求に心を揺さぶられました。原作未読でも楽しめますが、原作を読むと物語の深みがさらに増します。
**総合評価:★★★★☆(4.4/5)**
長尺を忘れるほどの没入感と、吉沢亮・横浜流星の魂の演技が光る本作は、芸道映画の金字塔として記憶されるでしょう。原作の完全再現を求めるファンにはやや物足りない部分もありますが、映画単体としては圧倒的な完成度です。
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